ワンルームを損切りしても、その損失は給与所得と相殺できません。最も多い誤解を正します
- 不動産の保有中の赤字(不動産所得)は給与と通算できるが、売却時の赤字(譲渡所得)は給与と通算できない。
- 投資用不動産の譲渡損失には、マイホーム(居住用財産)にあるような給与との通算特例は用意されていない。
- 500万円の売却損を出しても、税金は1円も戻らない(同年に他の不動産で譲渡益がある場合を除く。筆者試算の目安)。
- 唯一の逃げ道は、同年に売却した他の不動産の譲渡益との内部通算のみ。
- 保有中に減価償却を取っていた分だけ取得費が減り、帳簿上は売却益が出て課税されることすらある。
「含み損を抱えたワンルームを損切りすれば、税金が戻ってくるはずだ」。この考え方を持っている方に、私たちはこれまで何度も出会ってきました。しかし結論から申し上げると、その考え方は正確ではありません。
私たちは、不動産会社の販売資料を公的な一次情報と突き合わせて検証することを専門にしています。これまでに数十社分の販売資料と収支シミュレーションを読み比べ、Q&Aサイトに投稿された購入後の相談も継続的に読み込んできました。その立場から見ると、この誤解は非常に根強く、しかも税務上のダメージが大きい誤解です。
この記事では、「保有中の赤字」と「売却時の赤字」がまったく別の箱に入ることを、税制の構造から整理します。あわせて、唯一の例外である内部通算のルール、そして減価償却が引き起こす二重の打撃まで、順番に説明します。
あわせて、実際にこの誤解のまま損切りを実行してしまった場合に、どこで資金繰りが狂うのか、そして専門家にいつ相談すべきかまで、実務的な視点で整理しました。
「損切りすれば節税になる」という誤解の実態
Yahoo!知恵袋などの相談サイトを見ていると、「ワンルームを損切りすれば、その損失で税金が戻ってきますよね」という趣旨の相談が、繰り返し投稿される傾向にあります。
この誤解が根強い理由は、不動産投資には「保有中の赤字を給与と通算して節税する」という、よく知られたスキームがあるからです。このスキームのイメージが、売却時の赤字にもそのまま当てはまると誤解されているのだと思われます。
しかし、保有中の赤字と売却時の赤字は、税制上まったく別の箱に入ります。次の章で、この構造を整理します。
私たちが販売資料を読み比べる中でも、「売却で損が出ても、税金が戻るから実質的な損失は小さい」という説明が添えられた出口戦略を、何度か目にしています。この記事では、その説明がなぜ正確でないのかを、順を追って説明します。
知恵袋の投稿を見ていると、含み損を抱えたオーナーの相談に対して、「損切りすれば節税になる」という誤解を前提にした質問が繰り返し寄せられている傾向があります。回答者の多くは正確に指摘していますが、それでも同じ趣旨の質問が絶えないのは、保有中の節税と売却時の税制がセットで語られてこなかったためだと私たちは考えています。
この記事では、この2つをはっきり切り分けたうえで、唯一の例外である内部通算のルール、そして見落とされがちな減価償却の二重の打撃まで、順を追って整理します。
まずは、ご自身が今抱えている赤字が、保有中のものなのか、売却によって生じたものなのかを、はっきり切り分けるところから始めてください。

保有中の赤字と売却時の赤字はまったく別の箱
不動産から生じる所得には、大きく分けて2種類があります。保有中の家賃収入から生じる「不動産所得」と、売却したときに生じる「譲渡所得」です。
不動産所得は、給与所得などと合算して税額を計算する「総合課税」の対象です。そのため、不動産所得が赤字になった場合、その赤字を給与所得と通算し、給与にかかる税金を軽減できます。これが、いわゆる不動産投資の「節税」の正体です。
一方、譲渡所得は、他の所得と分離して税額を計算する「分離課税」の対象です。次の図で、この2つの箱の違いを整理します。
この壁は、税制上の分類そのものです。どれだけ売却損が大きくても、その損失が壁を越えて給与所得の側に流れ込むことはありません。
私たちが販売資料を検証する中でも、保有中の不動産所得が赤字であることを前提に、節税効果を織り込んだ収支シミュレーションを数多く見てきました。この赤字は総合課税の枠内にあるため、給与所得と合算して税額を計算し直すことができます。
しかし、この壁の存在を理解していないまま「不動産の損は税金で取り戻せる」という感覚だけを持ち続けてしまうと、売却の段階で認識が大きくずれることになります。まずはこの壁の存在を、税制上の事実として押さえておく必要があります。
マイホームには特例があるが、投資用不動産にはない
ここで注意が必要なのが、「マイホーム(居住用財産)を売って損失が出た場合は、給与と通算できる」という話を聞いたことがある方が多いことです。これは事実ですが、投資用不動産には当てはまりません。
マイホームの譲渡損失については、一定の要件を満たす場合に、給与所得など他の所得と通算できる特例が用意されています。次の図で、この違いを整理します。
投資用のワンルームマンションを売却して損失が出ても、マイホームのような通算特例は使えません。「不動産の売却損だから、いずれは通算できる」という理解は、投資用物件には当てはまらない点をきちんと切り分けて考えてください。
この2つを混同したまま損切りを実行すると、想定していた税務上のメリットが得られず、想定外の手取り額になってしまう可能性があります。
この特例には、譲渡損失の全額を通算できるとは限らないなど細かな要件もありますが、いずれにしても投資用不動産には適用されません。「不動産だから同じルールが使えるはず」という発想そのものが誤りの出発点になっています。
特に、自宅として住んでいたマンションを賃貸に転用し、その後投資用として売却したようなケースでは、この線引きを見落としやすくなります。用途がいつ切り替わったかによって扱いが変わる可能性があるため、個別の事情は税理士に確認することをおすすめします。
投資用不動産を「そのうち住むかもしれないから」といった曖昧な位置づけのまま保有していると、いざ売却する段階で居住用財産の特例が使えるかどうかの判定が難しくなります。用途は契約時点から明確にしておくべきです。

500万円の売却損を出しても、税金は1円も戻らない
具体的な数字で見てみましょう。仮に、購入価格より500万円安い価格でワンルームを売却し、譲渡損失が500万円生じたとします。次の図は、この場合に給与への税還付がどうなるかを示したものです。
この試算は、同年に他の不動産を売却して譲渡益が出ていない前提です。この前提が崩れると結果は変わりますが、給与所得との通算ができないという結論そのものは変わりません。
「500万円損したが、税金が戻るから実質はもっと軽い」と考えていた方にとって、この現実は厳しいものです。しかし、この現実を事前に知っておくことが、出口戦略を誤らないための第一歩になります。
「売却損が出れば税金は戻る」という感覚は、給与から源泉徴収された税金が年末調整や確定申告で還付される経験と結びついて生まれるのかもしれません。しかし、譲渡所得と給与所得は計算の土俵そのものが別であるため、この感覚は投資用不動産の売却には当てはまりません。
売却を決断する前に、この現実を数字として把握しておくことが、想定外の資金繰りを避けるための備えになります。
売らずに、持ったまま資金をつくるという選択
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- 価格帯は1,000万〜5,000万円程度、平均利回りは表面4%前後(同社公表値)
- 設立2002年/資本金9,000万円/宅建業免許 国土交通大臣(1)第10826号
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注意 面談特典の対象は年収・年齢・勤続年数・勤務先の条件を満たす方に限られます。条件は公式ページで必ずご確認ください。
上記はJPリターンズの公表値・公開情報にもとづく記載です。最新の条件は公式サイトでご確認ください。
唯一の逃げ道は「不動産の譲渡所得どうし」の内部通算
それでも、まったく打つ手がないわけではありません。同じ年に、他の不動産を売却して譲渡益が出ている場合、その譲渡益と譲渡損失を、分離課税の枠内で相殺(内部通算)できます。
唯一の逃げ道は、同じ年の不動産の譲渡所得どうしの内部通算です。給与所得との通算ではない点に注意してください。複数物件を保有している方は、売却のタイミングを同じ年にそろえることで、この内部通算を活用できる余地があります。
逆に言えば、単独で1件だけ損切りする場合、この逃げ道は使えません。複数物件を持つ場合の出口戦略は、5年ルール・デッドクロス・残債割れを扱った出口戦略の記事も参考にしてください。
複数の物件を保有している方は、売却のタイミングを意識的にそろえることで、この内部通算を活用できる余地があります。ただし、通算のためだけに無理に売却を急ぐと、価格交渉力を失い、結果的に譲渡損失そのものが拡大するおそれもあります。
内部通算の可否は、確定申告の段階で初めて分かるものではありません。売却を検討し始めた時点で、同年に他の物件の売却予定があるかどうかを整理しておくことが実務上のポイントです。
内部通算を検討する際は、売却する物件それぞれの取得費や譲渡費用を個別に計算し、通算後にどれだけの譲渡所得が残るのかを、確定申告のシミュレーションとして事前に試算しておくと安心です。
さらに残酷な事実。減価償却が二重の打撃を生む
ここまでの話だけでも十分に厳しいのですが、実はもう一つ、見落とされがちな事実があります。保有中に減価償却費を経費計上していた場合、その分だけ「取得費」が減っていくという事実です。
譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費は、購入価格から減価償却累計額を差し引いた金額です。つまり、保有中に節税のために減価償却を積み重ねるほど、売却時の取得費は小さくなり、譲渡所得(帳簿上の利益)は大きくなりやすいのです。
現金の手取りとしては売却損が出ているのに、帳簿上は譲渡益が発生し、譲渡税を払うことになるケースすらあります。「売却損=税金がかからない」という思い込みは、この点でも危険です。
この二重の打撃は、保有期間が長く、減価償却を積み重ねてきた物件ほど大きくなる傾向があります。特に建物比率が高い物件や、法定耐用年数の短い設備を多く含む物件では、取得費の減り方が早くなります。
売却を検討する際は、購入時の契約書に記載された建物・土地の按分比率や、これまでに計上してきた減価償却費の累計額を、必ず手元の書類で確認してください。この数字を把握しないまま売却を進めると、想定外の譲渡益に驚くことになりかねません。
減価償却費は、建物の構造や用途によって定められた法定耐用年数に基づいて計算されます。鉄筋コンクリート造か木造かによって、償却のペースは大きく異なります。自分の物件がどの区分に該当するかを、購入時の書類で確認しておいてください。

保有中の節税と、売却時の税負担を通算したトータル損益で考える
保有中の節税効果だけを見て投資判断をするのは危険です。本当に見るべきは、保有中の節税額と、売却時にかかる税負担を合わせた、20年単位のトータル損益です。
不動産投資の節税は「課税の繰延」にすぎないという構造を、より詳しく整理した記事があります。売却時の譲渡税まで通算した20年トータル損益を扱った記事をあわせてご覧ください。
年収別に節税額がどれだけ変わるかについては、年収600〜2000万円での節税額の損益分岐早見表にまとめています。課税所得が低い層では、そもそも節税効果自体が限定的である点にも注意が必要です。
保有中の節税額が仮に年間数十万円あったとしても、売却時にそれを上回る譲渡税や、通算できない譲渡損失が発生すれば、トータルでは持ち出しになっている可能性があります。目先の節税額だけで投資の成否を判断するのは危険です。
節税だけを目的に物件を保有し続けることは、収益力の低い物件を持ち続ける理由にはなりません。「節税目的で買う=その物件に収益力がない証拠」という指摘は、知恵袋の回答者の間でもたびたび語られる視点です。節税効果と物件そのものの収益力は、切り離して評価する必要があります。
知恵袋に見る「損切り=節税」という誤解のパターン
Yahoo!知恵袋には、含み損を抱えたワンルームについて「損切りすれば節税になりますよね」という趣旨の相談が、繰り返し投稿される傾向があります。回答者の多くは「売却損は給与所得と通算できない」という点を指摘していますが、質問者側にこの構造がなかなか浸透していない印象を受けます。
この誤解が生まれる背景には、保有中の節税スキームの説明ばかりが先に広まり、出口段階の税制がセットで語られてこなかったことがあると、私たちは考えています。
実際に損切りを迫られる状況になった方の相談は、残債割れワンルームの出口を扱った記事でも多く紹介しています。損益分岐を計算する際は、この記事で説明した通算のルールをあわせて考慮してください。
知恵袋での相談を見ていると、「新築は売った瞬間に2割下がる」という認識は広く共有されている一方で、その損失の税務上の扱いについては誤解が残ったままになっているケースが目立ちます。この情報の非対称性が、売却の意思決定を難しくしている一因だと考えられます。
大東建託やレオパレスなど、サブリース契約が絡む相談の中にも、賃料減額に加えて出口段階での損失を懸念する声が少なくありません。契約構造と税制、両方の理解が求められる場面です。
売却前に確認すべきこと
損切りを検討する際は、感情的に「早く手放したい」という判断だけで動く前に、次の点を確認してください。
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 取得費(減価償却累計額控除後) | 帳簿上の譲渡損益がどちらに転ぶかを把握するため |
| 同年の他の不動産売却予定 | 内部通算の可否を確認するため |
| 所有期間(5年超か以下か) | 長期譲渡・短期譲渡で税率が変わるため |
| 残債の有無 | 売却代金だけで完済できるかを確認するため |
これらの確認には、税理士など専門家の助言を受けることをおすすめします。特に取得費の計算は、減価償却の方法や期間によって個人での計算が難しくなることがあります。
特に取得費の計算は、購入時の諸費用の扱いや、増改築費用の有無によっても変わってきます。自分で計算した金額だけを頼りに売却を決断せず、専門家の確認を挟むことをおすすめします。
専門家への相談は、確定申告の直前になって慌てて行うよりも、売却を検討し始めた早い段階で行うほうが、選べる選択肢が広くなります。時間的な余裕を持って動くことをおすすめします。

損切りを検討する際のチェックリスト
最後に、損切りを検討する際のチェックリストを整理します。
①売却損は給与所得と通算できないことを前提に、手取り額を試算する。②同年に他の不動産の譲渡益がないか確認する。③減価償却累計額を踏まえた取得費で、帳簿上の損益を再計算する。④残債と売却代金の関係を確認する。
すでに失敗事例として同様のケースがどれだけあるかを知っておくことも参考になります。失敗事例10選と「失敗率40.7%」という数字の出所を追った記事もご確認ください。
チェックリストの項目をひとつずつ確認していくと、「損切り」という言葉が持つ響きほど、単純な決断ではないことが見えてきます。感情的な判断を避け、数字に基づいて意思決定することが、この局面では特に重要です。
また、売却によって生じる譲渡所得の申告は、給与の年末調整だけでは完結しません。確定申告が必要になるため、必要書類や申告時期を事前に確認しておくことも、実務上のチェックポイントに加えてください。
損切りは、税務上のメリットを期待せずに判断する
損切りという決断そのものを否定するつもりはありません。含み損を抱えたまま保有し続けることが、必ずしも正しいとは限らないからです。ただし、その決断は「税金が戻るから」という誤解の上に立ってはいけません。
サブリース付き物件の出口を検討している方は、「減額しない特約」は無効だと整理した記事もあわせてご確認ください。契約の構造を理解しておくことは、出口の判断材料にもなります。
そもそもワンルームマンション投資自体がどこまで儲かるのかという論点も、「買った瞬間に2割損」の正体を分解した記事で整理しています。損切りを検討する前に、まずは自分の物件が置かれている状況を、税制の構造から正確に把握してください。
この記事で整理した内容が、損切りという決断を急がせるためのものではなく、むしろ落ち着いて数字を確認するための材料として役立てば幸いです。
よくある質問
できません。不動産の売却によって生じる譲渡所得は分離課税の対象であり、給与所得などの総合課税とは別に計算されます。保有中の不動産所得の赤字は給与と通算できますが、売却時の譲渡損失は通算できません。
マイホーム(居住用財産)の譲渡損失には、一定の要件を満たす場合に給与所得などと通算できる特例が用意されています。しかし、投資用不動産にはこの特例が用意されていません。同じ「売却損」でも扱いがまったく異なる点に注意してください。
同年に他の不動産を売却して譲渡益が出ていない限り、税金は戻りません(筆者試算の目安)。譲渡所得は分離課税のため、給与所得側の税額計算には影響しないためです。
同じ年に、他の不動産を売却して譲渡益が生じている場合に限り、その譲渡益と譲渡損失を分離課税の枠内で相殺(内部通算)できます。給与所得との通算ではない点に注意してください。
減価償却費を経費計上した分だけ、取得費が減っていきます。取得費が小さくなると、売却価額から差し引ける金額が減るため、帳簿上の譲渡所得が大きくなりやすく、現金では損をしていても課税されることがあります。
一概には言えません。保有を続けることで赤字が拡大する可能性がある場合、損切りが合理的な選択になることもあります。ただし、税務上のメリットを過度に期待せず、手取り額ベースで判断することが重要です。
売却代金だけで残債を完済できない場合は、任意売却などの手続きが必要になることがあります。手出しの現金が必要になるケースもあるため、事前に金融機関へ相談することをおすすめします。
売却を具体的に検討し始めた段階で相談することをおすすめします。取得費の計算や、内部通算の可否は個々の事情によって異なるため、確定申告の直前ではなく、売却の意思決定前に相談する方が選択肢が広がります。

